「え……ちょ、待っ……」

 雪蓉は分かりやすいほど、うろたえていた。

冗談と思うには、劉赫の目が真面目すぎるし、こんな時にこんな嘘を言うわけがない。

「雪蓉の料理は、最高に美味しかった。ありがとう」

「やだ、やめて……」

 雪蓉は泣きそうになった。

これでは本当に、最期の別れみたいではないか。

 なんでいつも素直じゃない奴が、こんな時に限って素直なのよ。

美味しい? と聞いたら恥ずかしそうに頷くだけで、言葉に出して気持ちを伝えてきたことなんて、今まで一度もなかったじゃない……。

 劉赫は、目を閉じた。

最悪な死に方だと思ったが、好きな女に看取られるのは悪くない死に方だと思った。

 雪蓉に会えて良かった。

十四年前から、時が止まったように、楽しいことなんて一つもなかったが、雪蓉と一緒にいる時は心から楽しかった。

好きだと伝えられて良かった……。

「劉赫? ……劉赫っ!」

 意識を手放した劉赫に、必死で雪蓉が名前を叫ぶ。

しかし、劉赫は目覚めない。

 出会って間もないし、怒ってばかりいた。

でも、嫌いにはなれなかった。

なんだかんだで気になるし、知れば知るほど、放っておけなくなった。

 劉赫の死を前にして、いつの間にか自分の中で劉赫の存在がとても大きくなっていたのだと知った。

それは、皇帝だからとかではなく、一人の友として……男として、劉赫の存在は大切なものになっていた。

(どうして今更、それに気が付くのよ……)