澪さんは、そのために。
「……澪さん、人が良すぎますよ。友達とその彼女のために、自分が嫌われ役になるって」
「そうかな。言ってることは結構腹の中で思ってることだよ? 俺の血は黒いらしいからね。腹黒より上かもよ?」
そう、冗談めかす澪さん。
それでもあたしは、いっそ損なくらい、いい人だと思う。
真紅と黎さんが手を繋いだら、立ちはだかる壁がある。
その前に、澪さんは踏み台になるつもりで真紅に接している。
これから真紅が受けるだろう中傷に、少しでも耐性をつけさせるため、折れないようにするため――黎さんとの未来を成就させるため、真紅を強くさせようとしている。
恋人に頼り切りにならず、自分の足元が揺らがない『お嬢さん』にするために。
……それを知っているからあたしも、澪さんが真紅にキツい態度をとったり厳しいことを言っても、憎み切れないでいた。
「梨実さんは嫌じゃなかったの? 相手が知り合いだったとはいえ、親友に彼氏出来ちゃって」
澪さんに問われて、姿勢を正した。
「あたしは、正直言って安心してるんです」
「安心?」
澪さんは不思議そうに訊き返す。
「真紅はあたしのところにいてくれるために友達の誘い断っちゃうような子で、クラスでちょっと浮いてる感じがあるみたいだったんです。不器用なんですよね。だから、色々と事情はあるにしても、彼氏がいるっていう普通の幸せ? を手にしてくれて、安心してるんです」
真紅の最優先事項は、ずっとあたしだった。
その偏りが今、揺らごうとしている。
少しは淋しい。けれど、真紅、よかったね、って言ってあげたい。
でも、と続けた。