真紅が黎さんに拉致されてしまった。
見送ったあたしは、ベッドに身を投げ出した。
「あーあ。一人になっちゃたし……勉強でもするかー」
病院にいることが多いから、何かと遅れがちになってしまう。
在籍するのは単位制の高校だけど出席日数も危ないので、方法の一つとして高卒認定――昔の大検――を取って単位を補うことも考えている。
そのためには、やはり勉強は怠れない。
高校生になってからあたしの暇つぶしは、イコール勉強となっている。
病院にはあたしの勉強を見てくれる『いい先生』もいるし――
「梨実さん、入っていいかな?」
「あ、澪さん。どーぞー」
さっき、真紅に一方的にバチバチしていた澪さんと別人かと思うほど穏やかな顔で、カーテンを開けて来た。
「どうしたんですか?」
「うん、たぶん黎が、梨実さんからお嬢さんを連れ去っちゃってると思って。お詫びというかね。話し相手にでも使って」
苦笑する澪さん。つられてあたしからも笑みがこぼれた。
どうぞ、とパイプ椅子を勧めた。澪さんはあたしに斜めになるような位置で座った。
「お仕事はいいんですか? 黎さんもですけど」
「今日はどっちも休みだよ」
「でも黎さん、白衣着てましたけど?」
「あいつは目立つからさ。見舞客だと思われてナンパされること多いから、休みの日でも病院の奴だってわかるように白衣着用。それはスタッフも承知してるから、まあ問題防止と言うかね」
「なんか納得です」
思わず肯いてしまう。黎さんは人目を引く容姿をしているから。
「澪さんはいいんですか?」