ゆらりとした動作で私に笑みを向けてくる澪さん。
「真紅お嬢さん?」
………こわい。
澪さんの背後に黒い影が見えるのは、見鬼でなくても同じはずだ。
澪さんは黎が影小路家の人間と恋仲だということに文句があるのではなく、私そのものを毛嫌いしているようだ。
影小路真紅として逢ったときは、父である嗣さんが必死に止めないとその辺の花瓶でも投げて来そうな勢いだった。
……まあ、わからないでもないからなー。
小路十二家と呼ばれる、本家に次ぐ格の家の直系ながら、能力に恵まれなかった澪さん。
私は影小路の家のことすら知らず十六年生きて来たけど、取り戻したのは自分でもコントロールに必死になる力だ。
ただの人間と術師という、決定的な差。しかも私はにわかもの。
「黎ならいませんよ?」
「あ、今日は海雨に逢いに――」
「黎より梨実さん優先ですか。それは重畳(ちょうじょう)ですね」
澪さんから一方的にバチバチした視線を受けていると、海雨が私の腕に飛びついてきた。
「だって黎さんよりあたしのが真紅と長いもんねーっ。澪さんお話してくれてありがとっ。部屋行こ!」
「あ、うん……」
海雨に引っ張られて、海雨の病室まで入った。窓際のベッドに並んで腰かける。
「ごめん、海雨……」
「いいのいいの。って言うか、そろそろ言い返したら? おうちのことがあっても、黎さんの彼女は真紅でしょ?」
「うん……」
私が話したから、影小路の家のことや、小埜家のことも海雨は知っている。