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「真紅っ」

病棟のデイルームにいた海雨が、私を見つけるなり大きく手を振った。小さな大声というやつだ。

足を速めると、海雨との間にすっと立つ影があった。痩身(そうしん)の青年を見て、思わず息を詰まらせた。威嚇(いかく)の瞳で見て来るのは、小埜澪(おの みお)さん。

小埜家当主の孫で、黎にとっては幼馴染のような存在で――黎の、血液提供者だった人だ。

中性的な面差しの澪さんと、小埜家当主である古人翁の命でほぼ一緒にいたものだから、付き合っているとよくからかわれた、と黎が遠い目をして教えてくれたことがある。

しかし双方恋愛対象は女性なので、そういうのはまるっと無視していたらしい。

現在小埜病院は、古人さんの息子で、澪さんの父である小埜嗣(おの つぐ)さんが院長だ。

嗣さんも澪さんも陰陽師としての力やそれに類似するもの――霊力はないから徒人(ただびと)でしかないが、小埜家の人間にとって影小路は主家だ。

私が影小路の籍に入ってから一度、古人翁と嗣さんの許を訪れたことがある。

嗣さんや澪さんはその前、黎が人間になった場に居合わせてもいたから、私と黎が恋仲なのは承知――……のはずだった。

が。

『黎が影小路に入れるわけないだろ! しかもお嬢様はなんだ⁉ 今まではタダの人間だった⁉ 俺らだってタダの人間だ、取り戻せるもんもねえんだよ! 霊力なくしたり取り戻したり、おかみは随分勝手気ままにされますな!』

……澪さんには猛反対を喰らった。

今も。