紅姫自身が言った、というのも理由ではあるけど、紅姫が傍にいてくれると嬉しかった。
もう逢えないと思っていた。自分を頼って来た命。でも、紅姫は私のところに帰って来てくれた。――そう、帰ってきてくれた。
妖異、霊獣の状態の紅姫をこの世に留め置くには、楔(くさび)が必要だ。私の式、という立場は、それに敵うはず。
「―――」
それまで光の速度でシャッターを切りまくっていた紅緒様が、そっと腕を下げた。
「紅姫を、式にですか」
「はい」
「真紅、それはわたくしの了解がいりますか?」
「……え?」
「確かに、わたくしはいわばお前の師です。お前が妖異に喰われないように育てるとも決めました。ですが、わたくしの許を離れるタイミングまでわたくしが決めていいのですか?」
「―――」
「お前はお前の生(せい)を生きなさい。わたくしは、あとは総て姉様と黒藤のために生きると決めました。家の為なんかに生きてやりません。お前がわたくしの弟子であることを辞める機は、お前が決めなさい」
「………」
陰陽師として育ててくれた紅緒様のもとを、……離れる?
紅緒様は、あとはずっとママと一緒だ。それは……私がこの家を離れることも含められて?
急に背筋の冷える想像をした私に気づいたのか、紅姫がママの姿のままで胸に頭をこすりつけてきた。
「紅緒、あまりいじめちゃダメよ」