「大したもんだ。真紅のメンタルの強さ。俺だったらとうに折れてんだろうなー」

「転生の記憶が甦ってなお、正気でいる、か。……過去には耐えられなかった者がいるのか?」

「そりゃあ、小路の始祖は確認されているだけでも八人はいるからな。影小路(俺たち)が把握していないだけで、生まれていた転生がいてもおかしくない。始祖の転生のそのほとんどが当主になってきたとは言われるが、覚醒を得て心を壊した者もある。……過去の記憶に耐えきれなくてな」

いつも飄々(ひょうひょう)とした一つ年上の幼馴染を隣に見て、俺は一度瞬いた。

たまに、黒い陰陽師と言われる、影小路黒藤は俺のいる家を訪れる。俺を主とする、月御門家、東京の別邸だ。

最初こそ別邸(べってい)の月御門の家人に疎まれていた黒藤だったが、いつもの調子で気楽に話しているうちにその壁は崩れてきたように見える。

だが、一番肝心というか……俺の幼馴染で親友の、百合姫――水旧百合緋(みなもと ゆりひ)には相変わらず嫌われまくっている。

京都の本邸(ほんてい)にいる近い親族以外では、月御門家に俺がまことは女性(にょしょう)であると知るものは、百合姫しかいない。

最近、黒の従妹の真紅には知られたが、それ以上には知られる気もない。

「……過去を憶えているとは、それほど辛いものなのか……」

「ちげーよ、白。憶えて、じゃない。『覚えて』いるんだ」

黒は俺を『白(はく)』と呼ぶ。同じように、俺も『黒(くろ)』と呼んでいる。思えば、お互いしかそう呼ばない。