「それで真紅ちゃん、お母さん猫はどうするの?」
「あ、うん、この仔は――」
私に向かって顔を差し出して来た猫。たぶんこの仔は……
「……最期まで、私が看たいと思ってる」
何を証拠に、と言われたら、カン、としか答えようがない。でもこの三毛猫は、私を頼って来た気がする。私に辿り着くために、ここまで頑張って来た。
……そのカンは当たった。まだ仔猫もコロコロすることしか出来ない、目も開かない一週間後の夜明け前、母猫は静かに呼吸を止めた。
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小路一派に属する寺の動物廟(びょう)に、三毛猫を葬ってもらった。
仔猫の白猫と黒猫は、その日のうちに白桜と黒藤のもとへもらわれていった。
三人で暮らす家が、急にがらんとしてしまった。
――夢を見た。誰かが私を向かえに来る夢だった。黎? ママ? 私に向かって手を差し出した影。私はその影が誰かを見ようとして――ふと、足元に柔らかいものがすり寄って来た。驚いて下を見ると、三毛猫が私を見上げていた。お母さん猫だ! すぐにそうわかって、声をあげようとした。でも、名前をつけていなかったことを思いだす。仔猫たちには名付けたけど……。
膝を折って、三毛猫を撫でた。赤ちゃん猫みたいに柔らかい毛。癒してくれる感じに、思わず顔もほころぶ。
口を動かした。でも何故か、音にはならなかった。喉がおかしくなってしまったかと思ったけど、三毛猫は音にならなかった私の言葉を受け止めたかのように――ぴょんと私の肩に飛び乗って来た。
重さを感じなかった。