「今日はここに来られるの、午後だって言ってた。黒ちゃんを呼んだのも紅緒様でしょ?」
「落ち着いたら早目に連絡してやれ? 俺や白がいるって知ったらあいつ、妬くから。毎日来てるんだろ?」
「うん。黎も猫大丈夫だといいんだけど。……うん? 焼く?」
「って言うか、え? 真紅ちゃん、黎明のって毎日来てるの?」
黒ちゃんの言葉に首を傾げていた私に、目を丸くする百合緋ちゃん。言ってなかったっけ?
「うん。もう桜城のおうちは架くんが跡取りに決まったから、黎は小埜の家の監督下だけど、行動範囲もほぼ自由になったよ」
今まではどこへ行くかも必ず報告して、古人翁(おきな)の式が監視についてまわっていたそうだ。黎は私なんかよりずっと大変だったんだよね……。
「毎日って……面倒とか思わないの?」
とつと言われた百合緋ちゃんの半眼の言葉は意外だった。
「ええっ、な、なんで? す、すきな人に逢える時間なんて貴重過ぎるよっ?」
「あー……真紅ちゃんはそういう子なんだ……」
「ゆ、百合緋ちゃん? どういう意味……? まさか世間的には毎日逢うのは逢い過ぎ……?」
家のことにいっぱいいっぱいで、ずーっと恋愛事から遠ざかっていたから、一般的な価値観というものはてんで知らない。
不安になってたずねると、百合緋ちゃんはバツが悪そうに目線を逸らした。
「真紅ちゃんと黎明のがいいんなら、いいと思うけど……」
「百合緋ちゃんは、そうじゃないんだ?」
重ねて問うと、百合緋ちゃんからあったのは「まあね」という虚ろな返事だった。
私が黙ったままでいると、俯き気味に少しずつ話し出した。