「白は唯一の跡取りだったからな。じじいも必死になる」
黒ちゃんが嘆息気味に言えば、
「白ちゃんにはあげられないね」
「白桜は見ることも駄目ね」
私と百合緋ちゃんが平坦な表情で言った。
「え、そこ結託するの……?」
私たちも黒ちゃん側に廻られて、傷付いた顔の白ちゃん。
そのうちしぼんで縁石の上に膝を抱えてしまった。
「白桜にそんなことがあったのですか」
厨(くりや)――キッチン――にいた紅緒様とママが戻って来た。
「母上」
黒ちゃんが顔をあげると、紅緒様は複雑そうな顔をしていた。
「白桃にはそのようなことはなかったはずですが……遺伝とはわからないものですね」
感慨深げに紅緒様が呟くと、黒ちゃんは何故か目を糸目にした。私は黒ちゃんの表情の意味をはかりかねて首を傾げた。白ちゃん関連の話だったらいつも突っ込んでいくのに。
「紅緒様、母様とはご友人だったのですよね?」
白ちゃんが縁側の下から、目から上だけを覗かせて言った。恐らく膝を抱えたままなのだろう。なんかそんな妖怪がいそうだな、とひそかに思った。
「ええ。幼馴染ですね」
紅緒様とママが茶器の準備をするのを、駆け寄って手伝う。
「母様ってどんなお方だったんですか? 俺、伝聞でしか知ること出来ませんから」
その言葉に、はっと手が止まった。
白ちゃんの母、御門の直系だった白桃様は、白ちゃんが生まれて間もなく儚(はかな)くなっているそうだ。
紅緒様は思い返すように中空を見つめた。
「白桃は、そうですねえ……。ぱっと見は深窓の令嬢といった感じでしたが、結構な行動力がありましたね。わたくしが止めるのも聞かずに、修行でも使わないような深い山に入ったと思ったら鬼神を連れて帰ってきたり」
天音さんのことか。
白ちゃんが一の式――一番目の式――、天音さんはかつて『鬼神(きしん)』と呼ばれていたそうだ。
妖異の類(たぐい)でありながら、神と並び称されるほどの強者だった。
私は、どういう経緯で天音さんが白ちゃんの式となったかは知らないけど、天音さんが『姫』と呼ぶのが白桃様であることは知っていた。