学校の転校を機に、私は桜木真紅から、『影小路真紅』と名乗るようになった。
手続きは現在進行形なんだけど、ママとともに、ママの生家へ籍を移すことになった。
誰より何より、紅緒様が望んでいたこと。
ママが、当主夫妻に生まれた双児の姉という立場の直系長姫(ちょっけいちょうき)でありながら養子に出された理由は、占(せん)に出た凶兆(きょうちょう)だったらしい。
よく双児は忌まれるというけど、ママはそういう概念のものではなく、双児と関係なしに凶星(きょうせい)――まがつ星の運命を持っているとか。
私が力の覚醒を得て影小路に入ることになったとき、ママも小路の陰陽師たちと顔を合わせた。
ところが、紅緒様や対面したほかの小路の陰陽師は、誰も凶星をママに見いだせなかったそうだ。
最後に黒ちゃんが、私を――始祖の転生を産んだことで、星の運命が変わってしまったのだろうと言っていた。
天がさだめた運命すら変えてしまう始祖の転生。
その力を、私は自分に迎え入れることを決めた。
覚醒の前夜、私は月御門白桜――白ちゃんを訪ねている。
黎が鬼人であり、自分には陰陽師以外に退鬼師の血が流れていると知って、黎を失いたくないがために、退鬼師としての、陰陽師としての力を捨てることを考えた。
白ちゃんは否定しなかった。つまり、私には選択肢があった。
二度とその力を得られないことを承知で力を捨てるか、力を己のものとして別の道を探すか。
ことは、私が選ぶ前に起こった。
一人の陰陽師の介入によって、私の力の目覚めと、私の力を封じた紅緒様の目覚めの時間が早まった。
それによって黎の命は助かったのだけど。
黎の中に流れる私の、退鬼師としての血は、鬼人であり吸血鬼の、『混ざりもの』の黎の、鬼としての血だけを退鬼した。
黎が混血だったことが幸いしたということだ。
鬼人は人間と鬼、両方の血を引いている。わずかでも、黎には『人間としての血』が流れていた。
それによって生きることが出来た。
黎が完全『鬼』でしかなかったら、黒ちゃんが「変わった退鬼の方法だ」と笑ったこれは叶っていない。
黎と生きること。海雨を助けること。私は、それを選んだ。
「真紅ちゃん、そろそろ時間よー?」
「あっ、はーい」
私は、新しい場所にいる。
違和感の全くない、だが、『真紅』にとっては新しい居場所。
「行ってきまーす!」
私が生きる場所は、私が決めた。