「紅緒様、この子、大丈夫ですか?」

不安になって問う。紅緒様は真剣な顔つきで、私が抱いた三毛猫を見る。

「わかりません。ですが、見つかってよかった。猫の出産は基本、人間に手伝うことはありません。全部が生まれず腹に残っていたり、産後の仔猫へのケアがない場合は手出ししますが、出来るだけうす暗く、綺麗な場所に置いて出産させるのがよいそうです。茶室に置きましょう。簡易的な小屋を……段ボールか何かで作ります。持って行きますから、真紅は先に茶室へ行ってなさい。しずかに、ゆっくりと、ですよ」

紅緒様に言われて、黙って肯いた。

家の一番端に、四畳半ほどの茶室がある。

気を付けてゆっくり向かうと、すぐに慌てた様子のママが大量のタオルを持って来て、紅緒様も大き目な箱を持って来た。

「真紅、あとは私たちに出来ることは見守ることだけです」

三毛猫から瞳を離さない私の肩に手を置いた。

そうは言われても、あんなに苦しそうで……足を半歩後ろに引いて、拳を握った。

「出来るだけ、静かにしてあげましょう」

「―――いえ」

諭すような紅緒様に、否(いな)やを唱えた。

「聞こえてます。あの子、ここに居てって、言ってるように聞こえるんです」

言い切る私に、驚きの意味でだろう、紅緒様は大きく目を見開いた。

「私だけ、ここにいてもいいですか?」

言葉を重ねれば、紅緒様は刹那思案するように口を結んだ。

「……わかりました。真紅の直感を信じましょう。でも、騒いでは駄目ですよ?」

肯くのを見てから、紅緒様はママに目を向けた。

「姉様、ここは真紅に任せましょう」

「え、ええ……」

若干肯き切れないのか、歯切れの悪いママの背中を押して、紅緒様は茶室を離れた。