百合緋ちゃんにお礼を言われて、架くんは虚を衝(つ)かれたような顔をした。

百合緋ちゃんは泣きそうな顔で、小首を傾げた。

「桜城のおうちは兄弟そろって優しいんだね」

「―――」

今度は、少しだけ架くんの瞳が潤んだように見えた。

出自を知った架くんに、それを知らない百合緋ちゃんの言葉はどれほど響いただろうか。

御門、小路、双方の家には明かされていないけど、百合緋ちゃんは勿論、私の彼氏が桜城――小埜黎であると知っている。

《……レ》

糸が張るように空気が張りつめた。百合緋ちゃんと同時に振り向く。その先にあるのは百葉箱の社だ。

「百合緋様? 真紅ちゃん?」

架くんは何も感じなかったようで、不思議そうにこちらを見る。

百合緋ちゃんは見鬼(けんき)だ。同じものが聞こえたのだろう。

「今の……社から?」

百合緋ちゃんが呟く。黙って肯き、右足を半歩分、社へ近づけた。

《サレ、クリカエスナ、アカキタマシイ》

「――――」

今度ははっきりと聞こえた。百合緋ちゃんの肩がびくりと跳ねる。百合緋ちゃんは視えたり聞こえたりする力しかない。右手に、覚えたての刀印(とういん)を結ぶ。

《ココヨリ サレ アカキタマシイ ニノマイハ ユルサヌ》

唇を引き結んだ。邪気(じゃき)はない。恐らく、白ちゃんが言った地神の声だろう。

――威嚇するような口ぶりだが、恐怖もしない。

……その忠告の意味、わかっていた。

心の中で、言葉を並べる。