「百合緋ちゃん?」

私が首を傾げると、百合緋ちゃんは視線を斜め下へおろした。

「わたしはいつか……わたしじゃないものになる。今は『わたし』が表に出ているけど、中に居る『わたし』にいつか、乗っ取られる……。そんな気がして、怖い……」

右手で左ひじの辺りを摑んで、百合緋ちゃんは吐き出す。私は目を細めた。

「だから………百合緋ちゃんは、白ちゃんと一緒にいるんだね」

百合緋ちゃんは少し間を置いてから、肯いた。

百合緋ちゃんは物忌(ものいみ)だと言う。

百合緋ちゃんの中にある存在(もの)は、祓ってはいけない類のもの。

だから、不測の事態に備えて白ちゃんが常に傍にいる。

当代二強と謳(うた)われる陰陽師の一翼が。

「……こわい、ですよね」

ぽつりと言ったのは、私ではなく架くんだった。

「架王子?」

「すみません、その呼び方はやめてください、百合緋様」

……どっちもどっちでは?

そう思ったけど、空気が二人の間で流れているので言わないでおいた。

架くんが続ける。

「……徒人(ただびと)の俺には、真紅ちゃんや百合緋様のご不安は推し量れません。ですが、百合緋様には若君も白桜さんもおられます。大丈夫です、きっと。あの方たちは、絶対に百合緋様のお味方です」

架くんの凛とした、それでいて柔らかい言い方に、百合緋ちゃんは薄く開いていた唇を噛んだ。

「……差し出がましいことを申し上げました。ご不快に思われたら、申し訳ありません」

謝る架くんだけど、百合緋ちゃんは首を横に振った。

「あり、がとう」