実は無炎さんは、普通の人にも見ることの出来る人型――人の姿を取って、ここに生徒として紛れこんでいて、私たちのクラスメイトだったりする。
「いらんって言ったんだけど、天音が強硬でなー」
白ちゃんは苦笑する。
月御門別邸にいる三人は陰陽師としての力のない人たちで、三人とも当主である白ちゃんと近い年齢で、昼間は学校。
妖異の急襲とはいつあるかわからないから、当主が在籍する、実質本陣とも言える別邸が落とされてはまずいので、白ちゃん留守の際には、別邸には常時天音さんが控えているそうだ。
白ちゃんが学校に通うようになってから、天音さんか無炎さん、どちらかが白ちゃんの傍にいると二人の間で勝手に決められていて、神の末席に名を連ねていたほどの容姿が人目を引き過ぎる天音さんは却下され、無炎さんが同級生として、人型に変化(へんげ)して傍にいるようになったと聞いた。
白ちゃんがそこまでする必要はないと言っても、二基とも受け入れなかったんだとか。
無炎さんは学校では、目立つにごった紅髪は黒く変えているけど、黒ちゃんとそっくりの容姿まではどうしようもない。
無炎さんも月御門の苗字を名乗っているけど、周囲には黒ちゃんとは親戚だと話してあるようだ。
「それで、真紅。どうだ?」
無炎さんからの手紙に目を落としていた私に、白ちゃんが再び呼びかける。
「うん――。やっぱりおかしい、と思う……」
私が不審に思ったのは、このだだっ広い斎陵学園の、風の流れだった。
「風? 白桜は気づかなかったの?」
百合緋ちゃんが白ちゃんを見上げる。白ちゃんは肩を竦(すく)めてみせた。
「俺の本質は『焔(ほのお)』だからな。本質が『風』である真紅には、一歩及ばないところがある」
陰陽師――そもそも人間には、本質というものがあると、最初に紅緒様から聞いた。