「真紅ちゃーん。ここー?」

言いながら入って来たのは百合緋ちゃんだった。次いで白ちゃんも。

「百合緋ちゃん。どうしたの?」

架くんを休ませてほしいと言伝を書いて、二人に向き直る。

「どうしたもなんも、真紅ちゃんが架王子を拉致ったって騒ぎになってるから来たのよ。二人が前から友達とは知られてけど、なんかあったの? 架王子と付き合ってるの?」

百合緋ちゃんは何故か、架くんのことを『架王子』と呼んでいる。架くんはいつも居心地悪そうだ。

「架くんが倒れかけたから強制連行しただけだよ。今寝かせてる。百合緋ちゃんには言ってなかったっけ? 私がすきなのは架くんのお兄さんだよ」

「架王子のお兄さん? ……私、あまり家関係のこと教えてもらえないから知らないなあ」

百合緋ちゃんは小路や御門の人間ではなく、水旧(みなもと)という旧家の令嬢らしい。

「黎っていうんだけど、今は小路十二家の、小埜の人になったの」

「へーえ?」

百合緋ちゃんがにやにやし出した。一瞬声が詰まる。百合緋ちゃんはからかう人だったか……。

「百合姫、はしたないよ」

白ちゃんが優しく諌める。白ちゃんは白ちゃんで、百合緋ちゃんを『百合姫』と呼ぶ。これは黒ちゃんも一緒だ。

「白桜は知ってるの?」

「一応はね。小路に連なる人ではあるから、黒の方が詳しいけど」

見上げる百合緋ちゃんに優しく返してから、「真紅」と呼びかけて来た。

「無炎から預かりものだ」

「あ、ありがとう白ちゃん。無炎さんにもお礼言っておいてね」

「? なんで無炎から真紅ちゃんに?」

首を傾げる百合緋ちゃん。白ちゃんから受け取ったのは一つの手紙だった。

「真紅にはまだ式がいないからね。ちょっと無炎に調べてもらったんだ」

「ふーん。大変だねえ」

式、とは、妖異や精霊の類を自身の配下――使役(しえき)として契約したものを言う。

私はまだ陰陽師見習いもいいとこなので、式を得る段階まで行っていない。

紅緒様は、「式は必ず要るものではないし、まあ、式にほしいと望むほどと出逢えるかも、タイミング次第だと思いますよ」と言っていた。

「でも、無炎さんがここの生徒やってるのには驚いたよ」