「少し寝てね。先生には伝えておくから」

「だから大丈夫――

「疲れてるときは、休む! 疲れてなくても休みなさい!」

振り向きざまに叱咤されて、架くんは驚いたようだ。

「……なんか、真紅ちゃん変わったね」

「私の周りは限界突破で倒れる人がママだけじゃないって気づいたからね」

「兄貴も?」

架くんの問いかけに、私は牙をむいた。

「一番は黎だよ。あのワーカーホリック。仕事や学校をどうでもいいとか言いながら全力投球なんだから。三回くらい倒れるところに直面してるよ? それなのに毎朝うちまで来て……可愛すぎないっ!?」

「罵りたいんだか惚気たいんだからわからないよ」

「すきな人罵るわけないでしょ」

「うん、平和そうで何より」

架くんに生暖かく見守るような瞳で見られた。どういう意味か。

気を取り直す。

「と言うわけで、架くんにまで倒れられたら、私が黎に合わす顔がないからちゃんと休んで」

「……別に俺が倒れても兄貴は気にしない」

さっきから架くんは休まされることに反発してばかりで、私もそろそろ強硬手段に出たいと思い始めた矢先のその言葉だった。

堪忍袋も緒が切れるってもんだ。

「あーのーねー、黎が架くんのことどんだけ大事にしてると思ってるの。黎にとってはご両親が違うとか、取るに足らないことなんだよ。架くんが弟っていう、それだけで十分なの。その辺りわかって、信用してあげて」

「―――」

架くんは、無言でベッドの上で片膝を抱えた。

「私から言ってわからなかったら、前から黎のこと知ってる黒ちゃんから話してもらおうか?」

「すぐに寝ます。お願いだから学内で若君と接触させないで」

シャッと勢いよくカーテンを引かれて拒絶された。

『若君』と関われば架くんは消耗しかしないのもわかっているので、私も本当に呼んでくる気はない。そこまで鬼ではない。

――鬼では、ない。