俺が鬼人と吸血鬼の混血であるのに対して、黒藤は陰陽師と鬼の混血だ。
鬼人、ではなく、鬼。人間の血の混じらない、純粋な妖異としての存在。
しかも無涯はその大将。鬼頭(きとう)と呼ばれる、鬼の頭領だった。
紅緒様との馴れ合……馴れ初めは知らんけど。
小路流の当主が鬼を伴侶とする。その当時のことは知らない。けれど受け容れてくれる反応ばかりであったとも思えない。現に、俺がそうだ。
前例から逸れる者は忌まれる。
だが、正直まだ自分の位置は黒藤よりマシだと思う。
真紅に言ったように、俺には架(弟)がいる。
家のことは任せられるし――周囲の大方も架の方が相応しいと判断している――、危険視されるような力もない。
その上今や、鬼性(きしょう)も失くした身だ。
………。
問題は、真紅の方だ。
小路一派は、まだ真紅が俺と恋仲とは知らない。
知っているのは、紅緒様と小埜の人間の数人のみ。
真紅が本当に次代と望まれるほどの力を持てば――それでなくても始祖の転生として特別視されているくらいだから、それ相応の相手との縁談を望まれるだろう。
――元・鬼人で現・徒人(ただびと)の自分は、明らかにその位置には及ばない。
………だからって、別れる気なんてないけど。
父は無理を押して母を連れて来たくらいだ。最悪、自分も同じことをする。
その場合懸案(けんあん)になるのは、真紅の親友と紅亜様の存在だ。
真紅をここから連れ出せば、梨実とも離してしまうことになる。
真紅は梨実を助けるために影小路に入ることを選んだ。
それを、恋人だからという理由で引き離せるわけがない。
梨実が――ずっと一緒にいた友達が――いなければ、俺が出逢った真紅もいないのだから。
同様に、紅亜様がいなければ真紅はいない。
その紅亜様は今、影小路の人間として認められている。
持って生まれた凶星(きょうせい)――陰陽師にとっては最も警戒すべきものの一つらしい――が姿を消したことから、影小路姓を名乗ることを許されたと聞く。
姉にべったりな紅緒様もいるから、紅亜様が影小路と縁を切ることは出来ないだろう。
そのため、真紅を完全に影小路から離すことなんて不可能だ。
実を言うと、架から聞いている。
真紅は、将来旦那となる人には、紅亜様とも一緒に暮らしてほしいと望んでいる、と。
幸い、紅亜様との仲は悪くないと思っている。
紅亜様には真紅との交際も認められているし、真紅の願いは叶えたいと思う。