小路流は室町時代に一度、本家の後継者の相次ぐ急逝により滅亡しかけている。

そのとき、当時は本家よりは格下であった小路十二家から当主を迎え、なんとか繋いだと聞く。

影小路本家だけでなく、十二家から当主を選ぶしきたりはその頃かららしい。

家に興味はないけど、育った家である小埜家は十二家の一つなので、その辺りは知っていた。

黒藤が、その特異な生まれでありながら次代となることを決められているのは、強すぎる力を小路流が手放せないでいるから、ということか。

「黒藤の力が総て解放されてないってのは、どういう意味だ?」

「若君は御父君(ごふくん)の力を継いでおられる。が、その力はまだ眠っているんだ。若君の中にあるのか、散り散りになった無涯御大(おんたい)に残っているのか……そこまではわからないけど」

「………」

無涯。黒藤の父の名だ。

「……お前はよく知ってるなあ」

「兄貴が家にいない所為で俺が跡継ぎ任務を押し付けられたからね」

たまに嫌味を忘れないのも弟だった。

「無涯、か……」

「ああ……その点は兄貴と若君は一緒なのか」

ふと、今思いついたように言う弟に、俺は無言を返した。

桜城から出ても、名乗れるのは小埜姓だ。小埜は小路十二家の一つ。

俺が影小路の檻(おり)から出られるのは――出られたとしても、まだ先なのだろう。

しかし、恋うた真紅は反対に影小路に入り、そこの人間となった。なんなんだ? 因縁でもあんのか?

真紅を襲った妖異――烏天狗に接触したのが黒藤ならば、奴らが二度と真紅に近づくことはないだろう。

………。

自分で護れなかったことは、悔しいが。

黒藤の力は――架はまだ実力ではないと言うが――俺も認めるところだ。

――黒藤も、俺と同じ混血の鬼人だ。