「れ、れいっ?」
いきなりな行動にばかり出られて、戸惑うしかない。嬉しがるしかない。
「また明日、逢いに来るから」
「あ、ありがとう……」
「じゃあな」
「う、うん。――あの、でも無理はしな――むっ!」
最後まで言わせずに、黎が唇を塞いできた。
「そういうこと、言わない」
何回目のキスだろう。
何故か機嫌のいい黎に面喰いつつ、そろそろ自分がいる場所を思いだして来た。
「俺が逢いたくて来てるんだ。それは否定しないでくれ」
「う、うん――ごめん」
「ありがとう、のが嬉しいかな」
「あ、ありがとう……」
要望通りに言うと、黎は目を細めて微笑んだ。でも、私の中では何か足りない。
言わなくちゃ。
「私も、黎に逢えるの、嬉しい」
「………真紅」
「はい?」
「……いや、なんでもない。取りあえず、今日は帰る。桜城の家からこちらへの接触はないから、そこは安心していい」
「うん。わかった」
「じゃあな。ちゃんと寝ろよ?」
「黎もね」
軽く手を振って、黎を見送った。周囲に民家の少ない土地柄で、今は通行人もいない。
……人がいたら、私明日から外に出られない……。
幸い、黎を見送りに出たとき、紅緒様のことはママが抑えて家の中に留めてくれているので、そこは心配しなくてよかった。
「なんか……色々あったなあ……」
朝からママに嵌められて、黎とデートすることになって、架くんの母親に見つけられて……。
「……仲好さそうなご家族だったなあ」
私にある家族は長いことママだけだった。父のことは写真でしか知らないし、知りたいとも思わない。
桜城の家も、黎は縁切りしているとは言っていたけど、これから関わることがないというわけではないだろう。
「……仲良くしていただけるようにがんばろ」
大すきな人の家族だから。