「……黎?」
「うん」
「?」
どうしたんだろう。抱きしめられているから、互い違いになって黎の顔は見えない。けれど、黎の声がどこか浮かないのはわかった。
「……なにか、悩んでることあった?」
「……そんなんじゃない」
「そうなの?」
でも、何もなくて黎がこんな態度をとることはないと思う……。
自分の腕を黎の背中に廻した。
「黎」
「うん」
「れーい」
「うん」
「……すきです」
「うん。……ん?」
「なんか、言うタイミング逃してたから……。黎のこと、すきですって」
「………」
黎から応答はなく、代わりのように思いっきり抱き込まれた。
「わっ? あの、ちょっと苦しいけど……」
「うん」
同じことを言うだけで、黎からの返事はなかった。少し、残念な気持ちになってしまうのはゆるしてほしい。気持ちがあったら、同じだけを求めてしまうのは悪いことだろうか。
「……架の方が要るのかと思った」
「ええっ? どういうこと?」
黎の小さな言葉を聞き止めてしまい驚いて声をあげると、――同時に。
「真紅―っ! 帰りましたよ。――――!?」
……ママと紅緒様も帰って来た。ママがしまったというように表情を変えた瞬間、紅緒様は鬼神になった。角がはえてみえた。
――――――。
「ごめん……」
紅緒様のお説教を一通り聞いた頃には、もう夕焼けも去っていた。
申し訳なく謝ると、しかし黎はどこかからっとした様子で笑った。