「今日はごめんな? せっかく紅亜様が作ってくれた時間なのに……」
手が重なった影の夕焼け。黎は申し訳なさそうに言って来た。隣を見上げる。
「全然。黎のご家族にお逢いできて嬉しかったよ」
いきなりなこととはいえ、彼氏の家族に交際を認めてもらえたんだ。嬉しくないはずがない。
「架くんのことも……安心していいよね?」
うん、と黎は肯いた。
「大丈夫だ。誠さんも弥生さんも、総て承知で架を後継に据えたんだ。これからの桜城を率いるは架で問題ない」
私は返事の代わりに、繋いだ手に力をこめた。
帰った家に灯りはなかった。
「……ママたち、まだ帰ってないね。あがってく時間、ある?」
「そりゃ、真紅を一人になんかしたら紅緒様に呪われる」
黎が茶化すので、そっと睨み上げた。すると、「ごめんごめん」と私の頭に手を置いた。
「お二人が帰ってくるまで、いてもいいか?」
「うん。……そういえば、ちゃんと中に入ってもらったことなかったよね」
いつも紅緒様が玄関先で塩をまくから、黎が敷居をまたいだこともないかもしれない。
「お茶淹れるね。あがって」
敷地は竹垣で囲われていて、砂利と芝生で作られた庭。母家が一つの家が、今の私たちの住まいだ。
「まだ縁側の方があったかいね」
言って、庭に面した縁側に黎を呼んで茶器とお菓子を置いた。ママは料理上手で、お菓子も得意だ。少し時間が空くとお菓子も教えてもらっている。今まで一緒にいられなかった時間を、少しでも取り戻したくて。
縁側に並んで座る。竹垣がそれなりの高さがあるので、人目は気にならない。
「今日は、お疲れさま」
私が言うと、隣に胡坐をかいた黎は困った顔をした。
「疲れさせたのは真紅の方だろ。……大丈夫か?」
「私? 黎とのお付き合いを反対されなかったから、むしろ調子いいよ」
「……うん」
すっと黎の手が私の背中に廻って、そのまま抱き寄せられた。