「いえ……それに関しては、弟に今までにないくらいの勢いで説教されたので、お許しください」

架くん、また……。最初の説教の場に居合わせてしまった私は、頭の中だけでツッコんだ。

黎と、私の同級生の桜城架くんは兄弟だけど、親が違う。それを黎は、架くんに知られないようにしているそうだ。

二人の生家の桜城(さくらぎ)家は鬼人(きじん)の一族で、私のいる陰陽師・影小路(かげのこうじ)家は主家(しゅけ)にあたる。

黎の脳裏には、激しく叱責する架くんの言葉がうろついているようだ。

『そもそも! 主家の姫である真紅ちゃんを呼び捨てにするだけでも何事ってくらいなんだよ。兄貴は全然わかってないようだけど、紅緒様は前(さき)のご当主で、紅亜様のその双児の姉君だ。せめて呼び方くらい正すように――――』

それから延々(えんえん)三時間説教された。よく喋り続けられるなあ、と思っていたら、途中で小休憩が何回か入った。黙って怒られている黎は、忍耐強いなあ、と惚れ直した。

「でも……黎くんと架くんは違うわ」

「? ママ?」

ママは、優しく目を細めた。

「架くんは、家のためにわたしたち家族を護ろうとしてくれている。黎くんは、真紅ちゃんのために、でしょう? だから、そのうちでいいわ。もっと砕けた呼び方をしてくれたら嬉しいわ」

「姉様~! 今日はこの簪(かんざし)にしましょう! 秋のお色で姉様の雅やかさが際立ちます――今日も来たのね! 桜城黎!」

ママにシスコンを発揮しまくっている紅緒様――影小路が先代当主で黒ちゃんのお母様――は、双児ということもあってか、よくおそろいの物をママと身に着けようと用意している。

ママは双児コーデには興味ないようだけど、やっと一緒に暮らすことが出来るようになった妹のお願いはほとんど何でも聞いている。

そして何故か、ママは認めてくれているのに叔母には大反対されている黎との交際だ。

黎が来るたびに塩をまく勢いだけど、ママがいつもたしなめてくれている。

そして、どれほど邪険にされても、黎はこの、三人が住む家を毎朝訪れる。