架くんの顔がそっとあがる。黎も、自分の隣に収まっていた私を見て来た。

「架くんを失いたくない人たちだったから、今までそうして生きて来ただけだよ。誰かのために生きることはあっても、誰かの所為で生きることはない」

立ち上がり、架くんの前に両膝をついた。

「架くん。私と一緒に、斎陵学園に来て」

「―――」

架くんは目を見開いた。まさか私からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。

「架くんは、桜城の跡継ぎだよ。桜城は影小路と関わりがある。私は、影小路の名前になった。――影小路(私たち)が護るべきものを、一緒に護って」

架くんに向けて、右手を差し出した。

「架くんの立場で、私たちと一緒にたたかって」

架くんの父は、木野馨さん。母は、桜城弥生さん。子である架くんは――

「……やっぱり、俺は人間でしかないんだね?」

「………」

私は肯定せず、ただ架くんを見つめる。やがて架くんの視線は、差し出された手に向いた。

架くんが一度立ち上がり、私の前に片膝をついた。

「承知致しました」

「! あ、ありが――

「ただし、憶えておいてほしいことがある」

「……なに?」

「俺たちが護るのは、主家の方々であって主家の法理ではない。そして、俺が頭を垂れたのは真紅ちゃん――あなただけだ。俺が継ぐ桜城がお護りするのは、影小路真紅、あなたであることを忘れないでほしい」

家に仕えるのではなく、人に仕える。

架くんは、そう宣言した。

「―――うん」