「馨さんはなあ、すっげえ苦労性な人だった」

「え……」

「お前によく似ている。あの三人のストッパーっていうのかな。テンションが暴走しやすい三人を、よくいさめていた」

樹の下に三人並んで腰を下ろして、私はただ兄弟の会話を聞いていた。

黎の話に、架くんは顔を引きつらせる。

「三人のノリは前の方が激しくてなあ。馨さんが止めないと、ずっと喋り続けているくらいだった」

「………今の俺だ……」

そうなんだ。

私は黙っていることにした。黎は「よく似てるって言ったろ」と続けた。

「逆を言えば三人とも、馨さんの言うことだけは聞いていた。今は誠さんが大分落ち着いたけど、常識人だったから、馨さん」

「……なんか、大変さがよくわかるよ……」

「家の人たちは馨さんのことは、弥生さんの同級生程度でしか知らない」

「じゃあ……本当に母さんやとうさ――、…………」

恐らく誠さんのことをそう呼びかけて、架くんは声を詰まらせた。

「架。誠さんは、馨さんの分もお前を育てたかったんだ。嫌じゃなければ、そう呼んでやれ」

「………うん」

架くんは俯き気味に肯いた。

「……母さんも父さんも、美愛さんも……俺の所為で複雑にしちゃったんだね……」

「それは違う」

声にしたのは、私だった。