「………っ」
架くんの喉がひきつって音をもらした。
「………」
……私はただ、兄弟の会話を待つしかない。
「……いつから? 兄貴は……知ってたの?」
「最初からだ。お前が弥生さんの腹の中にいる頃、弥生さんは俺を馨さんとも逢わせた。当時はまだ誠さんと許嫁の関係だったけど、いずれ解消して桜城の家を出て、馨さんと結婚するって」
「最初からって……どうして、今まで教えてくれなかったんだよ……」
「三人がそう決めたことだ。それに、俺にとってお前が弟であることに変わりはない。お前に弟以外の場所をやるつもりはないし、お前以外の奴にその場所をやるつもりもない」
親が違っても、血の繋がりがなくても。
黎には、大事な弟であることに変わりない。
私は胸の辺りを摑んだ。血に縛られた私の命。……黎がこういう人だから、すきになっていたのかもしれない。
「……お前の名前をつけたのは、馨さんなんだ」
幹に触れていた架くんの手が、少し引かれた。黎は静かな口調で続ける。
「俺(兄)が吸血鬼の性(さが)だから、もし何かあったときのために、弟に十字架の名前をつけよう、って。お前は俺の弟だから『架』なんだよ」
そういえば、と思い出す。
白ちゃんが、以前は架くんのことを『十字架の』と呼んでいたと言っていた。
架くんの名づけの由来は知らないが――とも言っていたけど、的を射ていたのかもしれない。
「あのさ……」
「なんだ?」
「こういうときって……普通泣くものなのかな。それとも怒るべき?」
「……お前の、したいようにすればいい」
「…………そっか」
架くんの爪先が動いて、その身を反転させた。赤らんだ目で、唇は微笑みの形。
「兄貴。……俺の父さんのこと、教えて」