「黎っ」

「すみません。俺にとってはどうあっても弟です。一人には出来ない」

「―――」

黎の言葉を聞いて、三人は押し黙った。

「私には大事な友達です。行かせてください」

願い出ると、ややおいて誠さんが「頼みます」と応じた。

黎と二人で外に出ると、家人らしき人に出くわした。黎が「架を見なかったか?」と問うと、中庭の方へ歩いて行ったと返答があった。私もお礼を言って、先を急いだ。

中庭の大きな樹の下で、幹に向かっている架くんがいた。

「架!」

黎が呼びかけると、微かにその肩が揺れた。

「架くん……」

黎と私は急いでいた足を緩め、少しずつ距離を詰めた。

「……もしかして、兄貴が言った『総て』って、俺のことも入ってたの?」

架くんは私たちに背を向けたまま言って来た。黎が誠さんに言った、『真紅には総て話してあります』という言葉。黎がどう答えるのか心配になって隣を見上げた。

「……ああ。俺は、馨さんにも逢ったことがある。真紅には、そのことも美愛さんと誠さんのことも、話した」

包み隠さない黎。架くんに話すつもりはないと言っていたけど、ことがあらわにされた今、黎は弟にそう接すると決めたようだ。

「じゃあさ……俺は、兄貴の――黎の弟じゃ、なかったんだね」

苦笑すら混じったように聞こえる声は、ただ哀しい。架くんにとって兄は誇りですらあったのだろう。私と話したことの端々から、尊敬しているのはよく見て取れていた。

一番ショックだったのは、そこなのかもしれない。

黎はため息をついた。

「何言ってんだお前」

「ちょ、黎っ」

突き放すような言い草に、私が焦った。今傷付いている架くんにそんな言い方――

「親が同じじゃなくたって弟に決まってんじゃねえか。俺はそう思ってるけど、お前は違うのか?」