弥生さんの突然の行動に架くんがきょとんとした。

「架……今まで黙っていたことで、知っているのは誠と美愛くらいの話よ。――あなたの父親は、誠じゃないの。木野馨(きの かおる)。わたしの恋人よ」

「! 弥生っ」

「誠、話させて」

弥生さんの言葉が継がれるのを止めようとした誠さんを制して、弥生さんは架くんを見続ける。

架くんは一度瞬きをしただけで、何も言わなかった。

「誠とはお互い、恋愛感情のない許嫁だったわ。誠は留学先で美愛に出逢って、私は同級生だった馨と付き合うようになっていたの。許嫁を解消する準備をしている間に、黎が生まれた。そしてわたしが架を授かった直後、馨は急な病気で亡くなってしまった……。そのまま、美愛が誠の奥さんになって、わたしは桜城家とは関係のないところで架を育てるつもりだった。……でも、わたしの精神はそこまで強くなかった。心が弱って、お腹の中の架の命が危ない状態まで、身体まで弱ってしまったの。美愛と誠がわたしの心配をしてくれて、わたしが誠の妻になって、架を当主の二男として育てて行くことになった。……今まで黙ってて、ごめんなさい。謝ってゆるされるものでもないと、わかっているわ……」

弥生さんのいきなりの告白に、誠さんも美愛さんも、黎も、私も何も言えなかった。ただ、架くんの反応を待つ。

「……俺の――父さんは、父さんじゃないってこと?」

架くんの目線が誠さんに向けられて、誠さんは渋い顔の瞼を伏せることで答えた。

架くんはそれをどうとったのか、「そうなんだ……」と呟いた。

「架っ?」

そのままふらりと立ち上がった架くんに、弥生さんが慌てて呼びかけて。

「ちょっと、外の空気吸ってくる。頭の中、整理出来たら戻る」

タン、と軽い音を立てて襖が閉められた。

振り返らなかった架くん。

――私と黎が、同時に立ち上がった。