「紅緒様が反対されているのは、黎さんが駄目だとかいうのではないんです。紅緒様はシスコンレベルで、双児の姉である私のお母さんが大すきで、その娘――つまり私に恋人がいるのが気に入らないだけなんです。だから、私が黎さんじゃないと駄目なんです」
言い切ってから、最後に一番恥ずかしいことを言ったような気がして空気が抜けそうになった。
「真紅ちゃん、はっきり言うね」
それまで困り一辺倒だった架くんが、笑みを噛み殺している。
黎と私にあったことを知っているのは、架くんだけのようだ。
「し、しかし真紅嬢――御身(おんみ)は影小路が始祖の転生と伺っている。私も総ては存じ上げないが、転生とはほとんどが当主となってこられたのだろう? 黎の――二人の話を聞いていると、将来も望んでいるように聞こえる。まさか、黎を影小路本家に入れるつもりでおられるか?」
誠さんは心底心配し、かつ戸惑っているようだ。
「あの……誠さん? で、いいでしょうか……。私は、生まれはそうですが、まだまだ見習いもいいところです。当主を継ぐだのなんて話はありません。それに、影小路の正統後継者は黒ちゃ――黒藤さんです。黒藤さんが、どれほど跳ね除けていたとしても、その地位は揺るぎません。ですから、その……結婚、とかしても、大きな問題にはなりません。……現在、黎さんは鬼性をなくして普通の人と変わりありません。小路流が、流派の中だけで縁組をしてきたことがないのはご承知と思います。それから、……普段通りに喋っていただけないでしょうか。そのような話し方に慣れてませんので……」
――現在、御門流と小路流が陰陽道の二代流派だ。
御門流は既に白ちゃんが当主としてある。
白ちゃんはよく、「黒のが強い」と言うけど、白ちゃんも他の追随を許すような存在ではない。
その白ちゃんが統括する御門流と対等の位置を維持していくには、黒ちゃんが率いるよりほかにないと本家の人が言っていた。
過去の転生のほとんどが当主になってきたという話は私も聞いている。
けど、それより多く……影小路に、その存在も気づかれないうちに、果てている命がある。
妖異に狙われたり、持って生まれた力に呑み込まれてしまったり、生きることすらままならず。