「………」

「始祖たちは何度も転生を繰り返しているから、その記憶が、今の私まで継がれているんだろう、って。だから、陰陽道の術式を、私は勉強したことはないのに『知って』いる。扱いはまだうまく出来てないけど、どういう組み立てで使えばいいのかは知ってる」

「………」

黎は難しい顔をしたまま言った。

「……まさかの話だけど、過去の転生に、真紅の意識が邪魔されたりはしないのか?」

「それはないと思う。紅緒様は断言出来ないって言ってたけど、私にあるのは『記憶』だけで、転生たちの『意思』や『意識』ではないの。私の身体にあるのは、『真紅(わたし)』の意識だけ。だから、えーと……身体を乗っ取られる? とかいうことはないよ」

心配げな黎に、頑張って安心させるように言った。

紅緒様も黒ちゃんも、始祖の転生に逢うこと自体初めてだから言いきれないことが多いようだけど、当事者である私はそうだと『わかって』いる。

「そうか……無理はするなよ?」

「うん。ありがと」

庭先で二人でほのぼのとしていると、縁側からママが姿を見せた。

「あら、黎くんおはよう。今日も来てくれたのね」

私が黎と付き合うことに肯定的なママは、黎を笑顔で迎えてくれた。

ママは、妹である紅緒様と一緒に住むようになってから、家では着物を着るようになった。

小さな個人病院の看護師の仕事は、そのまま続けている。ママは、今日はお休みの日だ。

「おはようございます、紅亜様」

黎が返すと、ママは困ったような顔になる。

「黎くん……真紅ちゃんの彼氏にそう呼ばれるのはなんかこそばゆいのだけど……」

ママが居心地悪そうに言うと、黎は少し唸った。