「はっ、はじめまして。さく――影小路真紅といいます。黎さんには、いつも迷惑かけてばかりなんですが、とても――優しくていらっしゃるので、私の母も、黎さんのこと大好きなんです」
しゃちほこばった挨拶をすると、誠さんは緊張した私に穏やかに話しかけた。
「おや、そちらの親御さんとは逢っているのか。影小路まこさん――ん? そういえば先頃本家に入られたお嬢様もそんなお名前だったような……?」
う。まだ気づかれていない……。ど、どういう風に話そう……。
「誠さん、それ、真紅のことです」
「……は?」
誠さんはやはり笑顔で首を傾げた。
「紅緒様の姪で、黒藤の従妹になるのが真紅です。少し前までは『桜木』って苗字でした」
黎が丁寧に説明してくれた。三人から応答はなく、架くんは頭を抱えた。
「真紅は今、紅緒様のもとで陰陽師となるべく学んでいます。俺がそのことで何か出来るわけではありませんが、出来るだけ支えて行きたいと思っています」
「………ちょ、ちょっと待て、息子よ」
「はい?」
片手をあげてストップをかけた誠さん。なんだかその呼び方から狼狽えが見て取れる。
「まこさんが、影小路の真紅嬢だと? 紅亜姫の娘御ということか? 確か真紅嬢は架が――」
「父さん、兄貴の言ったことは本当です。俺は学校では傍にいたけど、今、真紅ちゃんは若君の要請を請けて斎陵学園に転校しました」
「それは聞いているが――……まさか息子が主家の姫君に手を出していたなんて……」
今度は誠さんが頭を抱えた。そしてその言い方が恥ずかしい。何か口をはさみたいのだけど、なんて言ったらいいのかわからない。
「黎。先ほど真紅嬢はご母堂(ぼどう)が認めてくださっているように仰っていたが、それは本当に認められているのか?」
「真紅の母親の紅亜様は容認くださっています。黒藤も承知しています。……ですが、紅緒様には目の敵にされています」
黎がド正直に話すと、誠さんは目を剥いた。
「紅緒姫様には反対されているのかっ? 先代にそのような扱いをされていては――
「あ、あの! そのことは私から説明させてください」
ようやっと私が話せることを見つけた。手を挙げると、一気に視線が集まった。