「真紅……ごめんな」
「え? なにが?」
「いや……せっかくだったのに、こんなことになって……」
「いやあ、なんか慣れて来た。こういういきなりなこと。……それでなんだけど、私、黎と付き合ってるって言っていいの、かな?」
弥生さんは、私を黎の彼女と断定して連れてきたようだ。けど、私の立場上簡単に話していいことでもない。黎の右手が、私の左手を包んだ。
「当り前」
「……うん」
どうやら、このだだっ広い屋敷に入るよりほかはないようだ。ここは鬼人の拠点。……陰陽師見習いである私には少し注意が必要な場所だ。
えーと……私の周り、一ミリくらいかな? に、結界を張って……。桜城のおうちの空気を乱さないようにしなくちゃ。
霊力の波動がある程度強いらしい私は、近づいただけで滅してしまう妖異もあるそうだ。
鬼人の家の敷地内で、そして恋人の実家で、まさかそんなことをするわけにはいかない。
桜城一族は、妖異に寄ってはいなく、陰陽師の配下でもあるそうだけど。
私が何をしているのか、黎はわかっているようだ。黙って待ってくれた。
「誠! 美愛! 早く来てちょうだいっ」
弥生さんが先を行って、それに私と黎も続いた。
「やよい? どうしたの」
弥生さんに応じて出て来たのは、銀髪に銀色の瞳の小柄な女性だった。
女性と言うか、少女と言える見た目だけど、その特徴から一目で黎のお母さんだとわかる。
少し長めの髪はゆるくウェーブがかかっていて、どこぞの貴人の趣(おもむき)だ。
「美愛! 黎の彼女よ! 見つけちゃったから連れて来ちゃった!」
興奮気味の弥生さんの言葉を聞いて、美愛さんは六回、瞬いた。そして、
「えーっ! レイの彼女? あ、レイ!」
弥生さんの後ろにいた私たちを勢いよく見て来た美愛さん。一目散に私の前にやってきた。
「あなたが? 可愛い女の子ね」
美愛さんは可愛らしい笑顔で言ってくれる。いやいや、可愛いのは美愛さんだ。