「―――」
「過去の転生たちが見て来た記憶しかない、意識や意思はないって言ったけど、感情を伴わないだけで、死ぬときの記憶は、生きた回数分ある」
「……真紅――」
「でもね、それ以上に強烈な記憶っていうのが、あるんだ」
「………」
「大事な人が、死んでしまうときの記憶」
「………」
「私の過去の転生は、必ず女の人なの。旦那様だったり、自分の子どもだったり、親や祖父母だったり、友達だったり……。大事な人が死んでしまうときの記憶が脳裏をよぎるときの方が、自分が死ぬときの記憶を思い出す瞬間より、私は苦しくなる。そういうとき、意識や感情を、受け継いでいないでよかったって思う。……当事者でない私が苦しくなるんだから、大事に思っていた本人だったら、どれほどだろう、って……。だから、お願いがあるの」
「……うん」
「絶対、私より先に死なないでほしい」
「………」
「もう、嫌なの。大すきな人の死を見送るの、もう……」
嫌なんだ。
「ママや、紅緒様のことは、覚悟してる。……こんな言い方したら、二人は怒るかもしれないけど……」
「わかった」
黎が握る手の力が強くなった。
「鬼人の身であったおかげで身体は丈夫なようだし、それが真紅の『願い』なら、俺が叶えたい」
「………ほんとう?」
「本当。俺は天命とか寿命とかは全然わからないけど、真紅が哀しいのは嫌だから」
見せる柔らかい笑顔に、心底今に感謝した。
自分の血が、変わり者でよかった。せめてこの人と一緒にいられる時間を、少しでもくれてありがとう。これから先は、二人が決めて行く。
「ありがとう……」
そっと繋いでいる方の黎の腕にもう片方の腕で抱き付いた。
「――黎?」
後ろからかかった声に、その名前と持つ黎と、反射的に私も振り返った。
そこには、驚いた顔の見知らぬ女性がいた。