黎と架くんの出生は複雑だ。

しかし兄弟仲は悪いわけではないようで、架くんは兄を思って黎を跡継ぎにと推し、黎は架くんとそのお母さんのために家を離れた。

「……黎は、おうちを離れて淋しくないの?」

「淋しい? ――くは、ないかな。小埜の家にいる時間の方が長いし……誠さんと美愛さんと弥生さんはテンションが疲れるし……」

「テンションが疲れる?」

「真紅には、四人のことは話しただろ? あれは桜城内部では知られてはいない話なんだけど、別にドロドロしたことがある人たちでもないから、すごく仲がいいんだ。内情を知らない人は不思議がっているけどな。そんで、仲が良すぎて言動が同じ方向で、ノリが良すぎてテンション高すぎて……相手するの、疲れる」

黎の哀愁を帯びた眼差しに、俄然気になってしまう。どんな人たちなんだろう。

黎のお父さんとお母さんに、架くんのお母さんか……。

私には、父親の記憶はない。物心がつく前にいなくなってしまったから。だから、血縁上の父親を『お父さん』なんて呼ぶ気はないし、特に逢いたいとも思わない。

うーん……やっぱり、いまいちわからないなあ。

『親の感覚』というものは、考えても摑みにくい。

「そんな親だし、縁切りもしているけど……いずれは真紅にも逢ってもらいたいと、思うんだが……」

黎の声が小さくなっていく。よくよく見れば、耳が少し紅い。か、かわいい……。

いつも私を引っ張ってくれる黎だから、その様が幼く見えて胸をつかれた。

「わ、私でよかったら」

答えると、黎の表情から緊張が少しだけ消えた。

「真紅以外に頼むつもりはないよ」

「そ、そっか……。では、よろしくお願いします。私も、黎のご家族に逢ってみたい」

「うん。……うちのはすっごく疲れると思うけど、俺も、紅亜様たちとは仲良くしていけたらと思ってる。―――」

ふと、開きかけた口をつぐんだ黎。私はほこほこした気持ちで言う。

「うん。黎がママと話してるのとか見ると、嬉しいんだ。紅緒様はまだ難しいかもだけど……いつかは、ね。私もがんばるから」

黎が毎日逢いに来てくれる。その行動の理由を、ママは真っ直ぐに受け取ってくれていると思う。

「……どこに行くってあてもないけど、少し歩いてみるか? 鳥が落ち着きなさそうだ」