烏天狗は妖異の中でも高位の妖だと聞いた。その総てを、黒ちゃんは降伏させたのだ。

黒ちゃんの力は桁違いだ。しかし、配下となっただけで、式に下ったわけではない。

黒ちゃんの式は、無月さんたち三基だけだ。

「黎は黒ちゃんのこと、どのくらい知ってるの?」

「黒藤か? 本家筋の奴のくせに放浪癖があるとか、正統後継者のくせに家のことは投げたとか。小埜は分家だから、宗家(そうけ)の噂程度に黒藤のことは聞いていた。小埜のじいさんのこと訪ねてきたことがあって、それ以来顔見知りだな。深くは知らないし、親しいわけでもない」

黎の言葉を聞いて、ふーむと頭の中でうなった。

ということは、黎は白ちゃんのこと――本当は女性だということ――は、もちろん知らないのだろう。

「あの、黎?」

「うん?」

呼びかけると、黎がこちらを見てくる。その瞳はコンタクトをしていて、銀ではなく黒い。

「今日……本当に忙しいとかなかった? ママが無理に呼んだみたいだし……」

気にかかっていることを問うと、黎は唇の端を歪めた。

「紅亜様には少し前に言われていたから、ちゃんと時間はある。それに、自分の彼女と一緒の貴重な時間だぞ? ほかに大事なもんがあるわけない」

「……………――――!」

黎の言葉をだんだん頭が理解して、一気に顔が熱くなった。か、彼女……。