「あ、黎!」

「おはよう、真紅」

私がママと、叔母の紅緒様とともに住んでいる古民家の朝に訪ねて来た黎に、一目散に駆け寄った。

「おはよう。今日は?」

「両方」

「忙しいね……あの、

「それは言うな。俺が来たくて来てるんだ」

私の言を、聞く前に黎は封じた。

黎は、毎朝うちにやってくる。

私と少し話をして、そのまま大学へ行ったり、休講のときは病院へ行く。

本当に毎日来てくれるので、黎が無理をしていないか心配になるんだけど……。

そっと見上げると、黎はふわっと笑った。

「俺より、真紅の方が心配だ。紅緒様は厳しくないか?」

私は十六の誕生日の前日に覚醒した、紅緒様によって封じられていた始祖の転生としての力を、陰陽道に倣(なら)いコントロール出来るようになるため、小路流が先代当主の紅緒様を師事している。

「それは大丈夫。なんていうか……使っていた記憶があるから」

「使っていた記憶?」

黎は不思議そうな顔をする。「うん」と続けた。

「うまく言えないんだけど、私の中に、私の知らない記憶がたくさんあるの。私が経験したことではない、でも、知っている記憶」

「それって……」

「紅緒様と黒ちゃんに話したら、それは過去の転生たちの記憶だろうって言われた」