……え?
顔をあげた。黎はまだ私の方を見ないまま、目を閉じていた。
「……? ごめん? って、なにが?」
すぐに帰ってしまうのだろうか。私がそう口にする前に、黎が気恥ずかしそうに、瞼を伏せたまま言った。
「ちょっと、理解が追いつかない。お二人に認められて真紅といていいとか……ちょっと待ってくれ、頭ん中に入れるから」
「え? う、うん……?」
どういう意味だろう。その意味こそわからずにいると、黎は長く息を吐いた。
「……本当に、俺といていいのか?」
「……え? えっと……黎がいてくれないと、今日の私の予定もなんもないと思う……?」
「じゃなくて。――紅亜様たちと一緒にいるって話だったんだろ? それが急に俺になっていいのか、って……」
「い、いいですっ。黎が、忙しかったり嫌じゃなかったら……」
「うん」
浮かんだ笑みが優しくて、続く言葉は黎の表情に呑み込まれてしまった。
「初めてだな。真紅と一日、一緒とか」
「そ、そうだね。海雨のところとかうちとか、結構逢ってはいるけど」
なんとなしに、並んで歩き出した。
「最初に逢ったときが、あれだったしねえ」
最初の黎は、吸血鬼だった。
今は鬼性(きしょう)を失った黎と、反対に陰陽師としての力を取り戻した私。
こうして、並んで歩けるなんて思っていなかった。
「……思い出させて申し訳ないけど、真紅を襲った奴のこと、黒藤たちは何か言ってたか?」
「烏天狗、だって。やっぱり私の力目当てだったみたい。私はまだ接触してないけど、白ちゃんと黒ちゃんが応対してくれて――」
「うん?」
「……烏天狗、全部が黒ちゃんの配下に下ったんだって……」
「……相変わらずだな、黒藤は」
私は片手で額を押さえた。