『はーい。黎くん、真紅ちゃんとは逢えた?』
「逢えたというか、今隣にいますが……真紅がいるとは聞いていませんが」
「私も黎がママと待ち合わせしてるとか聞いてないよ?」
思わず私も言った。電話の向こうのママがあまりにあっけらかんとしているから。
『真紅ちゃん、今日はママも紅緒も合流しないから、二人でお出かけでもしてきたら?』
「「はっ?」」
私と黎の声が重なると、ママはくすくすと笑った。
『ここのところ、家のことでいっぱいだったでしょ。たまの息抜きよ。黎く――
『姉様! なんてことをなさるんですか! 真紅を黎明のと一緒にいさせるなんて!』
『恋人同士なんだから一緒にいてもいいでしょー?』
『わたくしは認めていません! まだ審査中です!』
「「………」」
未だにその段階か……。そろってため息をついた。
『真紅ちゃんは黎くんと一緒だから、紅緒は今日、わたしとデートしましょうね?』
『!!!!! よろしいのですかっ⁉ 真紅! 今日だけ特別に認めます! 黎明の! 真紅に不埒な真似をした瞬間に出入り禁止にしますからね!』
ぶつっと、電話はそこで途切れた。
「「………」」
えーと……なんだ? ママが、今日は私が黎と一緒にいられるように取り計らってくれたと?
そこまで思考が追いついてから、そっと黎を見上げた。黎もはめられた感しかないようだけど……。
「………」
ふいっと、そっぽを向かれた。
……か、顔背けられた……。
見上げた瞬間に逃げられたので、余計にダメージを喰らった。
……や、やっぱり忙しかったのかな……その中無理に時間作ってくれたのに、とか……あっ、もしかしてママと逢う方がよかったのかな? ママ、可愛いし優しいし……ああっ! なんか修羅場だっ。
主に、紅緒様との。
不安から逃避するように妄想に陥っていると、ふと視界の端で黎の手が動いて、その口を覆った。
「――ごめん」