海雨は、今日も元気そうだった。
病状は一進一退だけど、ここ最近――私の覚醒があってから――は比較的元気でいられる日が続いていると、元お隣のおねえさんで看護師の舞子(まいこ)さんが言っていた。
ママに言われた待ち合わせ場所は駅前だった。時計台を見上げると、待ち合わせの時間まであと少しだ。
「紅緒様とお出かけって……私、失敗しないといいけど……」
紅緒様は叔母である以前に師匠という認識なので、少しだけ不安だった。
「あ、もしかしたら黒ちゃんも来るとかあるのかな……」
紅緒様の息子である黒藤さんのことを、私は『黒ちゃん』と呼ぶようになっていた。
黒ちゃん自身が、『白とそろえて』と言って来たから。
「……真紅? だけか?」
「……えっ? 黎!?」
現れたのは黒ちゃんではなく、呆気に取られた顔の黎だった。
「えっ、どうしたのっ? あ、私はママと紅緒様を待ってるんだけど――」
「……俺も紅亜様を待っている……はずなんだが……」
「え」
「………紅亜様に、今日ここへ来ないと後悔すると言われて」
「ママが呼び出したの? ダブルブッキング?」
黎もママを待っている? 状況がわからずにぽかんとしてしまった私を見て、黎はスマートフォンを取り出した。
「ちょっと待ってろ。紅亜様に訊く」
「え、あ、うん?」
黎がこっちへ来いと手招くので、隣に立ってスマートフォンに耳を近づけてみた。