「紅緒様の姪――黒の従妹が、始祖の転生として覚醒した。今は紅緒様、母の紅亜様とともに暮らしているが、恐らく小路流の後継者争いに関わってくるだろう。そうなれば、御門としてもなんらか動く必要が出てくる。お前たちにも当主直属としてやってもらうことが出来るだろう。――何があっても、
「動揺せず」
「心に余裕を持ち」
「真実(まこと)を見つめること、止(や)みません」
俺の言にかぶせてきた三人に一瞬虚を衝かれたあと、唇の端で笑った。俺が三人によく言っていた言葉だ。
「俺のこともわかられているな。これ以上お前たちに言うことはない。――お前たちそれぞれに妹背(いもせ)が出来てここを離れるまでは、俺がお前たちの主だ。俺は最後までお前たちを誇りに思う」
妹背――背の君。生涯の伴侶を見つけるまでは、三人は俺のためにここにいる。だから、俺は三人を信頼することで返事をする。
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「ここでいいよ。白もまだ仕事、あんだろ?」
月御門別邸の門まで黒を送りに出た俺に、黒は微笑んだ。
「ああ。……お前も、夜警もほどほどにしろよ。縁(ゆかり)が心配する」
「まーな。縁はほんと、口うるさい姉って感じになってきたよ」
「いいじゃないか。俺もお前も、きょうだいはいないんだし」
黒の世話に手を焼いている縁を思い出して、思わず笑ってしまった。
縁は戦闘には向かない。
俺の配下二基がともに戦闘向きであるのに対して、黒藤の配下三基で、戦いの場に出られるのは無月だけだ。
その辺りは、主の差なのだろう。
「黒。真紅はお前を、越えられないよ」
「ん? どした?」
「真紅が小路の跡目争いに関わってくると言う話だ。過去の転生がことごとく当主になってきたとはいえ、真紅の力量はお前には届かない」
「……そうであっても、俺が当主になるのは問題だらけだ」
「月御門(うち)も影小路(お前)も、純粋な人間の血だけでないことは周知されていることだ。……お前がそこまで思い悩むことはないと思うんだが」
「父上が人間(ひと)でないことは、どうでいいんだ。……俺の命が父上を抹殺したことが、問題なんだ」