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「先生にもお母さんたちにも、驚かれちゃったよ」

「あー、急に病状よくなったから?」

いつものように、病室のベッドに、窓の方を向いて並んで腰かけている。

――海雨が緊急手術に入った日から一週間。起き上がれるほどまで回復していた。

まだ病室の外へは出られないけど、室内だったら歩き回ることも出来る。

「一応、手術が成功したから、ってことになってるけど。……本当は、わたしを蝕(むしば)んでいたものがいなくなったから、なんて言えないし」

「言えないね」

苦笑をもらすしかない私。

私は、今まで通り『海雨』と呼ぶ。海雨も『真紅』と呼ぶ。二人の関係は、少しも変わっていなかった。

「学校に戻る目途(めど)も立ちそうだよ。ありがとうね、真紅」

「半分は黒ちゃんが引き受けてくれたから、お礼は黒ちゃんにも言ってね」

「うん」

黒ちゃん――影小路の、正統なる後継者。

「ねえ真紅。黒藤さんって……わたしのこと、知ったんだよね?」

「うん……。私が打ち明ける前から、黒ちゃんは海雨が誰だか知ってたみたいだった。黒ちゃんに隠し事が出来るほどでは、まだ私はないから」

海雨が私に打ち明けたことも、黒ちゃんには伝えた。

私一人では助けられなかった。黒ちゃんが手を貸してくれた恩もある。

「そっか……」

「黒ちゃんには、一族にも流派にも他言無用でって言って置いた。約束は護ってくれる人だと思う」

「うん。わたしもそう思う。……けど」

「? けど?」

「……今まで見て来た小路の子で、一番の問題児だよ、黒藤さん……」

「………否定出来ない」

海雨は、始祖当主の記憶を隠そうとはしなかった。自分から進んで話すこともないけど、隠し立てもしない。

「あ、あとさ、私のとこに紅姫を送ってくれたの、海雨でしょ?」