「……やってしまった………」

ひとしきり、黎に抱き付いて泣きまくった私は、正気を取り戻してから凹んでいた。

椅子に座った私の前に、黎が立っている。

「なあ、お前たちが誰も頼れないってのは澪に聞いてわかったんだけど、どういう理屈で頼っちゃ駄目なんだ?」

「どういう理屈って……」

理屈ならたくさんある。陰陽師としての縛りとか、契約とか。

返事に困った私の手を、膝を折った黎の手が包む。じっと見て来る眼差し。私は、真剣に答えを探す。

「えと、依頼内容は絶対秘密だから、他の人――自分の家族にも、そのことを欠片でも悟られちゃ駄目で、だから言えない。どんなことを知っても、誰にも話しちゃいけない。どんな結果になっても、哀しいことだったとしても、それも依頼に含まれていること。だから、誰も頼ってはいけない。――総てを引き受ける覚悟で、私は影小路に入る道を選んだ。辛い気持ちを、誰かに寄りかかって解消することは出来ない。……そんな感じかな?」

私が紅緒様と白ちゃん、黒ちゃんから教わったことを話すと、黎は「ならさ」と返して来た。

「さっきみたいに、何も言わずに、俺のとこで泣くことくらいは規律違反にはならなんじゃないか?」

「え……」

「あんだけ真紅が泣いても、俺は真紅が泣く理由は全然知らない。見当もつかない。……理由や原因は、絶対聞かない。仕事に関しては、真紅から話してくれること以外は。泣いても辛い気持ちを総て解消は出来ないだろ? だから、俺に寄りかかって解消するとは考えないで、ただ、俺を泣き場所にしてくれればいい。そう言う風に傍にいる、のはダメか?」

「そ、そんな甘えるみたいなこと――」

「自分の男に甘えないでどうする。でも、区別つけた方がいいのかな。俺は、陰陽師・影小路真紅にとっては、ただの泣き場所。愚痴る場所ではない。……そういう、一緒に居る方法があってもいいじゃないか?」

「………」

自分の手を反転させて、黎の手を握り返した。

「いい、の? どんだけ大泣きしても、黎には何も言えないんだよ?」