「―――――っ、はあっ」

「真紅、大丈夫か?」

膝を折った私を、黎が支えてくれる。黎の手を借りてパイプ椅子に座りなおし、しっかりと黎に肯いた。

「うん、ちょっと疲れたけど、大丈夫。ありがとう、ずっと傍にいてくれて」

「当然」

ぽん、と私の頭に、黎の手が乗った。……そのあたたかさが胸にしみた。

「黒ちゃん」

「ん? こっちは終わってるぞー。ってか、全部叩き出してから戻るまでに随分時間かかったな?」

手に浮かせていた符(ふ)を消した黒ちゃんが、私の方へ回り込んでくる。

「うん、ちょっと黒ちゃんには報告することが出来た。これは、さっき私が話したこと同様、他言無用でお願いしたいことなんだけど」

「わかった」

「海雨の意識が戻ってから……話す」

私は、確かに海雨に手を差し出した。受け止めたのも、私だ。

「黎」

傍らの黎を見上げて、手招きした。

「どうした?」

身を屈めた黎の首に腕を廻して、引き寄せるように抱き付いた。

「ごめん、こういうとき頼っちゃ駄目だって、わかってるんだけど……」

苦しい。心の奥が、重たい苦しみに包まれている。

「うぅ……っ」

痛みも苦しみも、全部一人、心の中に閉じ込めておかなければならない。それはわかっている。だから昨日、黎には何も言わなかった。

「ごめん……っく」

涙が止まらない。知った真実は、私には大きすぎる闇だった。

「うん」

黎の腕が、そっと私の背中に廻った。

「何も言わなくていいから。泣きたいときは、せめてここにいてくれ」