『真紅……って、これからも、呼んでいいの?』
『呼んで。私の親友は、海雨だけなんだから、海雨に呼んでもらわなくちゃ困る。――還るよ、『海雨』』
彼女――海雨に向けて、手を差し出す。
『内部(なか)での術式は終わったよ。外で黒ちゃんが全部叩きのめしてくれる。あとは、海雨の生きる意思にかかってる。帰るよ』
『真紅……っ』
海雨が、長い衣を翻して駆けて来た。そのまま抱き留める。
『ごめんなさい……っ、ずっと、言わなくて……』
『だから、謝らないの。私は――私たちは何も怒ってないから。ちゃんと生きて帰って、そんで、澪さんの告白、真剣に答えなさい』
『! ……真紅、それ、知ってたの……?』
『紅に聞いた。病室に残して行ったから、全部見聞きしてた』
『紅姫―っ! なんて伏兵なんだあの子は!』
それまで憂愁をたたえていた海雨が奇声をあげた。
思わずくすりと笑う。
『だから。……澪さんも、待ってるよ。ここで澪さんからも逃げ出したら怒るからね』
『……はい』
『じゃ、約束。たぶん、私の方が先に意識戻るから、待ってるからね。みんなで』
『うんっ。……ありがとう、真紅』
海雨の言葉が光のようにはじけて、暗闇だった世界が真っ白に染まって――私の意識もはじき出された。