どちらだ? そこにいるのが、海雨なのか、始祖当主なのか。
「………」
自分が不甲斐無い。ずっと一緒に居た親友と、最初の主すら見分けられないなんて。
『あなたは、……海雨?』
問いかけると、彼女はふるりと首を横に振った。――否定。
『わたしは、ずっとわたしだったの。ごめんなさい、真紅。《海雨》なんて子は、本当はいないの』
『―――――』
今度襲ってきたものは、戦慄なんて生易しいものではなかった。
わたしは、ずっとわたしだった……? その言葉は、海雨の存在への否定か? 梨実海雨はいなかった……?
『何度――何度も、あなたたちはわたしを見つけて、わたしに知られぬようにと護ってくれた。徒人(ただびと)になった、影小路の罪の権化(ごんげ)であるわたしを……』
『ご当主、さま……?』
今話しているのは、始祖当主?
どういうこと? 私の頭の中で、彼女の発する言葉が意味をなさない。彼女は哀しそうに顔を歪めた。
『わたしは転生の檻に居るわ。総て、わたしのまま……』
『――――――っ』
何度も生まれ変わってきた。
始祖の転生と呼ばれるほどだった私たちだけど、過去世の自分と今の自分は別人だという認識があった。
過去の記憶があっても、あるだけで、そのときの感情や決断をした意思は持っていなかったから。
私は、自分の命は『桜木真紅』のものであり、今の名は『影小路真紅』ただ一人のものだと認識している。
だが、彼女の話しぶりは、私たち始祖の転生とはずれがある。
『ずっと……ご当主様のまま、転生を繰り返して……?』