「そんな心配のある息子だったら、殺してしまえばよかっただろう。そうすれば始祖たちは転生の檻に囚われることもなかった。始祖当主の命が輪廻の中を巡ってまた生まれても、傍に配置される必要もなかった。始祖の転生も始祖当主の転生も、そんな風に苦しむこともなく普通に恋愛だって出来た」

「簡単に言わないでください! ご当主様が、どれほどの……っ」

私が悲鳴のような声をあげても、黒ちゃんはしれっとしている。

「知ったことじゃないな。何代もあとの子孫まで苦しめる判断を下すなんて、そいつに当主の資格があるとも思えない」

「――黒藤!」

黒ちゃんの厳しい批判を遮ったのは、黎だった。

「そこまでにしてくれないか。梨実のことを友達として不安に思ってる真紅でもあるんだ。今の状況で追い詰めることを言わなくてもいいだろう」

私を黒ちゃんからかばうように、二人の間に身を置く黎。

私はその背中を見上げて泣きたくなった。

いつもそうやって、護ってくれる……。

「そもそもお前たち、話が飛躍し過ぎてないか? 過去のことは一族外の俺に言えたことはないかもしれないけど、梨実は生きてるんだぞ? 何故最悪のことばかり考える。真紅が梨実から妖異の残滓を祓うことも、まだ続けている途中だろ? なんで『今』を見ない」

はっと、私の肩が揺れた。

始祖の転生は、二度と泰山府君祭を行う者がいないよう監視するために転生を繰り返している。

その前提には、誰かが亡くなっていることになる。

今はまだ、そんな人はいない。

「――黒ちゃん。手伝ってほしいことがある」

「……俺に?」

黒ちゃんは胡乱(うろん)に眉を寄せる。私は決然とした言葉を放った。

「海雨の祓魔(ふつま)を、今、一気に行う。私が少しずつやっていたけど、遺された残滓が大きすぎる。私の力だけでは、あとどのくらいかかるかわからない。それまで海雨の体力が持つかも……。今の海雨の状況は、私の把握不足でもある。私の祓いより残滓の浸食の速度が速くて、海雨の状態を危なくしたんだと思う。だから、お願い黒ちゃん。最悪を起こさないために、今の海雨を助けたい」

影小路にとっての最悪、とは、死者が出て泰山府君祭が行われることだ。その予防線を張ることは、禁忌ではない。

黒ちゃんは大きくため息をついた。

「俺は小手先の仕事は苦手だ。荒っぽいぞ?」

「細かいところは私が請け負う。私が海雨の内部へ這入りこんで海雨から残滓を引き離す。外に出た残滓を片付けてもらえたら、それ以上のやり方はないと思う」