私は何度目になるかわからないくらい奥歯を噛んだ。
「……いいえ」
「じゃあ、なんであんな風に言ったんです?」
澪さんは退かずに問うてくる。
「……海雨を――ご当主様を、二度と死者の甦りなんかに関わらせたくなかったんです。澪さんは小路一派の人間です。海雨に何かあったとき、泰山府君祭を頼らないと言いきれますか? ……海雨の命は、普通の人間のものです。ですが、幼い頃は妖異が取り憑いていました。その破邪(はじゃ)のために私は海雨の傍に配置されていたんです。私が始祖の転生で、海雨がご当主様の転生だったから、私たち二人は近い場所にいたんです」
私が転生として覚醒したときに肌で感じたもう一つの始祖の転生の秘密。
始祖の転生は、始祖当主の転生のごく近くに生まれる。
私はあらかじめ、海雨の傍にいるようにさだめづけられていた。
「お嬢さんと海雨ちゃんは、友達になるように仕組まれていた、ってことですか……?」
澪さんのその言葉には、首を横に振った。
「ごく近くに存在するようには仕組まれていたでしょう。ですが、友達になるか、ただの知り合いで終わるかは、私たち次第だったはずです。私たちは、一番の友達になりました。私も海雨も、過去世のことなんて知らずに。純粋に、友達として好きになったんです」
でも、私はやがて影小路の始祖の転生としての記憶も取り戻すこともさだめづけられていた。
それこそ、烏天狗の急襲で命を落としでもしなければ。
きっと、澪さんを見上げる。
「澪さんが、小路や御門、陰陽師に関係のない人なら、手放しで応援出来ました。でも、澪さんは『小埜澪』です。欠片でも危険があるのなら、私は認められない」
少しでも、始祖たちが未来に案じた危険性が、あるのなら。
泰山府君祭を行い、成功し、死者の血を引いた赤子を得た影小路一族。
黄泉の息が血に混ざったことの危険性を把握した始祖たちは、自らに呪詛(じゅそ)をかけた。
「私は始祖の転生です。始祖たちは、自分たちが犯した禁忌が未来にないよう、影小路を監視するために、お互いの命を転生の檻(おり)に閉じ込めるための呪詛をかけました。小路流のある限り、必ず始祖の転生が小路に生まれ、監視するために。――私は小路流の監視者です。海雨の友達としてではなく、海雨の隣に澪さんの存在は認められません」
「殺しちゃえばよかったのに」
「―――!」
冷酷な言葉を、なんでもない口調で言ったのは黒ちゃんだった。
蒼い顔をした私が見ても、黒ちゃんは顔色一つ変えない。