私は黙って黒ちゃんの言葉を聞く。

周囲には、転生以外の影小路の人には、どう認識されているのか知りたかった。

「影小路(うち)で始祖って呼ばれるのは、一人のことを指しているわけじゃない。影小路の始まった年代にいた者たち、複数人のことを指している。ただ、その中でも当主であった一人だけは『始祖当主(しそとうしゅ)』って呼ばれる。――真紅は複数人いた始祖のうちの一人の生まれ変わりで、海雨は始祖当主の生まれ変わり。……違いないな? 真紅」

私の知る真実を指摘されて、もう逃げ場はない。

隠し続けた、海雨の正体。

「……そう。海雨は、……ずっと前の海雨は、私たちのお姫様。ご当主様だよ」

「でも――海雨ちゃん、見鬼でもないし、普通の人、ですよね?」

澪さんは、私と黒ちゃんを交互に見る。私の、自分の腕を摑む手に力がこもった。

「ご当主様は、普通の人になったんです」

黒ちゃんが目を細める。

「なった? 真紅。俺や、ほかの影小路の人間も、これ以上は知らない。お前たち始祖の転生があまりに頑なに口を閉ざすから、始祖の転生とは何者なのか、どうして転生を繰り返すのか――。……話してもらえないか? 今の海雨を助ける策も講じられるかもしれない」

海雨を助ける。その言葉に、私の心は動いた。

私にとって海雨は大事に護って来たお姫様だけど、それを思い出すより前から、大事な大切な、親友だった。

「……始祖たちは、禁忌を犯したんです」

私は、ずっとうつむけていた顔をあげた。

「禁忌?」

そこで初めて、黎の声を聞いた。少しだけ頭を上下させる。

「泰山府君祭(たいざんふくんさい)を行ったんです」