「真紅、澪、黎」

今まで満ちていた緊張感とは打って変わって落ち着いた声。呼びかけたのは黒ちゃんだった。

真剣な眼差しで、海雨の両親を見遣る。

「うちの者たちがお騒がせしてすみません。みんな焦ってしまっているので、少し落ち着かせてきます。必ずまた、戻らせます」

有無を言わせぬ黒ちゃんの口調に圧倒されてしまい、誰も逆らわずに、海雨の両親を置いてそこを離れた。

いつか、再会した黎と話した中庭へ、黒ちゃんに連れられて来た。

「真紅、大丈夫か?」

「……うん」

黒ちゃんに問われて、右手で左手の肘あたりをおさえた。

海雨の命が、今一秒削られている。その場に澪さんが居合わせるなんて最悪だ。

「真紅。お前、俺たちに何を隠してる?」

黒ちゃんの問いかけに、唇を噛んでうつむいた。黎や澪さんだけならまだしも、黒ちゃんに隠し事は通用しないだろう。

けれど口にするのを迷っている私を見透かすように、黒ちゃんが先に言った。

「――涙雨から、真紅が海雨のことを『私のお姫様』って呼んだって聞いた。……海雨は、始祖当主の魂(たましい)だな?」

「! ―――」

黒ちゃんの指摘に、思わず肩が跳ねてしまった。それを見逃す黒ちゃんではない。

「やはりか……」

「若君、海雨ちゃんは影小路――小路流には関係のない人ですよ?」

澪さんも困惑からか、確かめるようにそんなことを言った。黒ちゃんは軽く息を吐く。

「始祖当主と始祖の転生は違う」