「大学のことで。実習あるから忙しくなるんだって」
「そういう。……兄貴、本当に医者になる気なのかな?」
架くんはやや天を仰ぎ気味に言った。
「古人さんはそうされたいみたいだよ。小埜家の黎への方針っていうか。医学部で特待取るくらいの頭だし」
「でもやる気ないよね」
「……うん」
否定出来なかった。黎は医者になることは否定していないけど、黎がやりたいことを聞いたこともなかった。
……こういうところ、黎とのコミュニケーション不足を感じる。もっといっぱい黎を知っていたいのに。
そこではっとした。私は、自分のことも話していないことに気づいた。
影小路へ入ることや、そこで生きていくことは決めた。
でもそれを、直接自分の言葉で黎に伝えたっけ? なんとはなしに、流れで黎の耳に入っていた気がする……。
勿論、海雨のことや始祖の転生のこと、話せないこともある。
けれど、恋人として付き合っていく上で知っておいてほしいこと、知っておきたいことまで、なあなあにして伝えていなかったのでは……?
黎だけを責められない。
周りにどう思われようと、私は黎と対等の関係を望んでいる。
「真紅ちゃん、次兄貴に逢えたら、いっぱい甘えてあげてね?」
「あ、甘え? どうしたの、急に」
架くんのいきなりな言葉に驚いた。
「兄貴、真紅ちゃんに頼ってもらえないと、たぶん自分がいる意味ないとか思っちゃうと思うからさ。……兄貴、生きてる意味を求めやすいって言うか……誰かに生きてる意味をもらわないと、まだ無理だと思うんだよね」
「―――」
生きてる意味をもらう? 妙な言い回しに首を傾げていると、架くんは「だから、甘えてあげて」と続けた。
黎に、甘える。……甘えてばかりだと思う。